診療科のご案内 泌尿器科

当科の概要・特色

泌尿器科は外科系の診療科であり、手術で治療出来る疾患を取り扱ってきました。しかし最近は薬物療法の進歩により外科的、内科的両方の面から治療を施行しています。当科が扱うのは腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道などの泌尿器、前立腺、精嚢、精巣、精巣上体などの生殖器官そして副腎、上皮小体の内分泌器官でありそれらの臓器に発生する病気の診断と治療をしています。
食生活の変化と高齢化社会を背景に、当科には尿路結石症、前立腺肥大症、過活動膀胱などの良性疾患、前立腺癌、膀胱癌などの悪性疾患の患者様が多く来診されます。以下、主な疾患に対する当科の取り組みを紹介いたします。

泌尿器科というと恥ずかしい・・痛い検査をされるのでは・・と敬遠しがちです。また男性の患者さんがほとんどと思われる方が多いかもしれません。しかしながらこれから記載する過活動膀胱や間質性膀胱炎など女性が罹患する疾患もあります。患者様のプライバシーや検査の痛みに対してスタッフ一同十分配慮しております。遠慮せず気軽な気持ちで受診いただければと思います。なお女性医師が希望の患者さんは受付で申し出てください。曜日は限定されますが対応が可能です。

現在、常勤医2人、非常勤医1人で診療に従事しています。常勤医の今村は2010年に当院へ赴任し今まで伊勢志摩地区の多くの患者様に育てていただきました。今後も伊勢志摩地区の地域医療に貢献できるよう努力してまいりますので皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。                

診察内容と対象疾患

尿路結石症

排石が期待できるものは薬物治療で経過をみますが、そうでないものは体外衝撃波結石破砕術を主に施行し、体外衝撃波で破砕しにくい症例には内視鏡手術での治療を施行しています。当科では伊勢志摩地区では先駆けて2012年から軟性尿管鏡とレーザーを用いたf-TULを施行しています。近年ではTULやf-TULが治療の中心となり、年間100例以上の施行をしております。なお再発が多い疾患のためパンフレットを用いた生活習慣等の啓蒙活動を施行しています。

 

〈排尿障害〉

前立腺肥大症

中高年男性が多く罹患し排尿障害の一因となっています。薬物療法が近年進歩し前立腺部尿道を拡げる効果のあるα1遮断薬(タムスロシン、シロドシン、ナフトピジル)を中心とした治療を施行いたしますが前立腺体積の大きいものには前立腺縮小効果のある5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)を併用することもあります。一方で前立腺部尿道を拡げるだけでなく膀胱血流の改善効果もあるPDE-5阻害薬(タダラフィル)が2014年に登場しています。排尿困難だけでなく頻尿改善といった副次作用もあり当科でも積極的に使用しています。
なお薬物治療で効果のない前立腺肥大症には積極的に経尿道前立腺切除術(TUR-P)を施行しています。近年手術数が増加し、手術を受けられた患者様からも排尿状態が良好になったと喜ばれています。

過活動膀胱

最近マスコミで話題となっていますが頻尿、尿意の切迫感などの症状が主体であり中年期以降の女性に多い疾患です。薬物治療を(抗コリン薬、β3刺激薬)を中心に施行しています。また重症例にはボツリヌス毒素膀胱内注入療法を施行する場合もあります。

間質性膀胱炎

頑固な頻尿や、トイレに行ってもすぐに行きたくなる、尿を我慢すると下腹部が痛いなどの症状を来す慢性的な膀胱炎で、特に女性に多い病気です。
細菌感染で起こる急性膀胱炎や尿意切迫感を来す過活動膀胱と症状がよく似ていますが、全く別の病気です。細菌感染で起こる急性膀胱炎とは異なり、多くの場合、尿には異常がありません。医療機関を受診すると、症状から急性膀胱炎と診断され、抗菌薬を処方されることがよくあります。それで一時的に症状が治まっても、間質性膀胱炎の場合は、しばらくするとまた同様の症状が起こります。尿に異常がないにも関わらず症状が治らないため、精神疾患と誤解されることもあります。頻尿が顕著な場合は、過活動膀胱と診断され、治療薬が処方されることがありますが、多くの場合治療効果がありません。そのような場合は、間質性膀胱炎が疑われます。当院では間質性膀胱炎の診断と治療を施行しており、膀胱水圧拡張術、潰瘍焼灼術、薬物療法などが施行できます。また膀胱水圧拡張術は、厚生労働省による認可を受けた病院しか実施することができません。当院は認可を受けており、施行が可能です。なお間質性膀胱炎には非ハンナ型、ハンナ型がありそれぞれ治療法が異なります。また治療に難渋する症例は間質性膀胱炎専門クリニックへの紹介も試行しています。

※排尿障害と言っても、複合的な症状も多く画一的ではありません。自分の力で排尿ができず自己導尿が必要な患者様には当科外来看護師がパンフレットを用いて実技指導を行っています。どうぞ遠慮なくご相談いただければ幸いです。

 

〈悪性腫瘍〉

前立腺がん

最近急増している疾患です。55歳以上の方にはPSA検査をした上でがんの疑いのある場合は前立腺生検を随時施行しています。2021年からは従来の経直腸型前立腺針生検に代わって腰椎麻酔下に経会陰式前立腺生検を実施しています。痛みを感じることなく、前立腺をくまなく組織採取できるためがんの検出率向上が期待できます。また一部の症例にはMRI画像とエコー画像を融合したターゲット生検も2023年から開始しました。当院の限局性前立腺がん治療の特徴として強度変調放射線治療(IMRT)を放射線科の主導によって施行しています。2020年からは直腸への有害事象を軽減する目的で直腸と前立腺の間隙へハイドロゲルスペーサーを挿入する方法も適応症例には用いています。一方で従来からの根治療法である開腹手術(根治的前立腺全摘術)も施行していましたが現在手術療法はロボット支援腹腔鏡下手術が中心になっています。近隣では伊勢赤十字病院に導入されており、三重県内では2023年現在9施設で施行可能です。他には放射線を出す小さな線源を前立腺内に挿入する小線源療法があり県内では三重大学病院で施行されています。患者様には適応があるすべての治療法を説明の上、適切な治療法を選択してもらっています。最善の治療選択をしてもらうため積極的に他施設への紹介をしていますので遠慮なくご相談下さい。なお他施設で治療後に当院でのフォローアップも可能です。
 転移をしている前立腺がんには以前から内分泌治療が中心ですが一定の期間で内分泌治療に抵抗を示す去勢抵抗性前立腺がんへの移行が問題点です。ここ数年で転移性前立腺がんには様々な薬剤(エンザルタミド、アビラテロン、アパルタミド、ダロルタミド、ドセタキセル、カバジタキセル、ラジウム223)が適応となり適切な薬剤を使用することで治療成績が改善しています。患者様の状態に応じて適切な薬剤を選択して治療を施行します。
前立腺がんは様々な遺伝子変異を起こしている特徴がありますがBRCA1/2の変異のある転移性前立腺がんや去勢抵抗性前立腺がんにはPARP阻害薬という遺伝子修復酵素阻害薬が適応になります。この場合は遺伝子パネル検査が必要となります。遺伝子パネル検査は三重大学ゲノム診療科の協力を得て施行しております。

膀胱がん

内視鏡手術(TUR)、膀胱内注入療法など標準治療を施行しています。腫瘍の残存の有無を含めた正確な診断のためTUR後数週おいて行うセカンドTURも積極的に施行しています。また2023年から5-アミノレブリン酸(5-ALA)による光線力学的診断を用いたTURも一部の症例に導入し、より腫瘍残存を含めた正確な診断がなされるように工夫しています。なお筋層浸潤癌は膀胱全摘出+尿路変更が標準治療ですが大きな負担のある治療であることは否めません。そのため低侵襲手術が施行されている他施設への紹介も積極的に施行しています。転移性の膀胱がんには白金製剤を中心とした抗がん剤治療、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体のエンホルツマブ-ベドチンによる逐次治療が可能です。

 

<免疫チェックポイント阻害薬について>

2018年のノーベル医学生理学賞でも話題になったニボルマブ、イピリムマブですが泌尿器科領域でも腎臓がんの転移・再発にニボルマブ、イピリムマブが適応となっております。さらにぺムプロリズマブ、アベルマブが適応となっております。また抗がん剤に抵抗性となった転移性の膀胱癌をはじめとした尿路上皮癌にペムプロリズマブ、抗がん剤数コース施行で治療効果がある症例の維持療法にはアベルマブが適応となっております。また膀胱全摘出後の再発予防としてニボルマブが適応となっております。当科でもこれらの薬剤を導入しており、著効される患者様もおられます。一方免疫関連有害事象(irAE)といった独特の副作用もあるため、患者様に十分説明の上で治療を施行しています。

主な手術の施行症例数と入院患者数

令和3年1月から12月末までの1年間の主な手術の施行症例数と入院患者数を下記の表に示します。

 

手術名 症例数(R3年1月~12月末)
根治的腎摘出術 2
経尿道的膀胱悪性腫瘍手術(TUR-Bt) 44
経尿道的前立腺切除術(TUR-P) 14
高位精巣摘出術 2
陰嚢内手術 4
包茎手術 6
体外衝撃波結石破砕術(ESWL) 104
経尿道的尿路結石除去術(TUL) 96
経皮的尿路結石除去術(PNL) 4
経尿道的膀胱結石摘出術 10
前立腺生検(検査) 89
手術総数 418
年間入院患者数 383

当科は日本泌尿器科学会専門医教育基幹施設となっています。

<限局性/局所進行性前立腺がんの強度変調放射線治療成績>

 5年非再発率88.6%
 10年非再発率85.9%

5年PSA非再発率は88.6%と良好であり、泌尿器、消化器の合併症も1%程度と安全に行える治療です。
その他当科では日々の診療の結果を見直し、改善していく目的で学会発表や論文作成も定期的に施行しています。

学会発表

2014年

第266回日本泌尿器科学会東海地方会 2014年12月 名古屋
肉芽腫性精巣炎の1例
今村哲也 堀内英輔

2016年

第66回日本泌尿器科学会中部総会 2016年10月 四日市
当院で施行した前立腺癌に対する強度変調放射線治療の短期中期治療成績
今村哲也¹ 堀内英輔¹ 二見友幸² 笹岡政宏²
¹泌尿器科 ²放射線科

第273回日本泌尿器科学会東海地方会 2016年12月 名古屋
膀胱原発MALTリンパ腫の1例
今村哲也 堀内英輔

2017年

第105回日本泌尿器科学会総会 2017年4月 鹿児島
アビラテロンの中止によりPSA値が低下した1例
今村哲也 堀内英輔

2018年

第106回日本泌尿器科学会総会 2018年4月 京都
腎癌晩期再発の3例
今村哲也 堀内英輔

第279回日本泌尿器科学会東海地方会 2018年12月 名古屋
膀胱異物の1例
今村哲也 堀内英輔

2019年

第107回日本泌尿器科学会総会 2019年4月 名古屋
根治術後10年以上経過した再発腎癌の5例
今村哲也 堀内英輔

2020年

第108回日本泌尿器科学会総会 2020年12月 神戸
当院で2007年7月から2014年3月までに実施したIMRT症例92例の長期成績
今村哲也 堀内英輔

第285回日本泌尿器科学会東海地方会 2020年12月 WEB開催
2,8-Dihydroxyadenine結石症の1例
宮地志穂里 今村哲也 堀内英輔

2021年

第71回日本泌尿器科学会中部総会 2021年10月 名古屋
前立腺癌に対してSpaceOARを留置後に施行した強度変調放射線治療(IMRT)初期23例の検討
今村哲也¹ 堀内英輔¹ 服部優奈¹ 二見友幸² 笹岡政宏² 宮地志穂里³
¹泌尿器科 ²放射線科 ³三重大学 腎泌尿器外科

第288回日本泌尿器科学会東海地方会 2021年12月 WEB開催
前立腺結石が原因と考えられた会陰部膿瘍・尿道皮膚瘻の1例
服部優奈 今村哲也 堀内英輔

2022年

第291回日本泌尿器科学会東海地方会 2022年12月 名古屋
肛門異物を契機とした直腸尿道瘻の1例
武内祐史郎 今村哲也 堀内英輔

2023年

第110回日本泌尿器科学会総会 2023年4月神戸
Efficacy of hydrogel spacer in intensity modulated radiation therapy for localized prostate cancer
Tetsuya Imamura1) Yuushirou Takeuchi1) Eiho Horiuchi1)
Masahiro Sasaoka2) Tomoyuki Futami2) Yuuna Hattori3)Shiori Miyachi4)
1)The Department of Urology Ise Municipal General Hospital
2)The Department of Radiology Ise Municipal General Hospital
3)The Department of Urology Matsusaka Municipal General Hospital
4)The Department of Urology Mie Prefectural General Medical Center

論文発表

2016年

肉芽腫性精巣炎の1例
今村哲也 堀内英輔
泌尿器科紀要 62 :45-47,2016

2017年

左腎摘出術施行後に発生した乳糜漏の1例
今村哲也 堀内英輔
三重医学 60:7-10,2017

当院で施行した前立腺癌に対する強度変調放射線治療の短期中期治療成績
今村哲也¹ 堀内英輔¹ 二見友幸² 笹岡政宏² 
¹泌尿器科 ²放射線科
泌尿器外科 30:1431-1436,2017

2021年

球部尿道穿孔をきたした膀胱尿道異物の1例
今村哲也 堀内英輔
泌尿器外科 34:639-641,2021

2,8-Dihydroxyadenine結石症の1例
宮地志穂里 今村哲也 堀内英輔
泌尿器科紀要 67:419-421,2021

2022年

膀胱原発MALTリンパ腫の1例
今村哲也¹) 宮地志穂里¹) 堀内英輔¹) 池田健²) 
市立伊勢総合病院¹)泌尿器科 ²)内科
日本泌尿器科学会雑誌 113:28-32,2022

前立腺結石が原因と考えられた会陰部膿瘍・尿道皮膚瘻の1例
服部優奈 今村哲也 堀内英輔
泌尿器外科 35:1213-1216,2022

医師紹介

今村 哲也 〈部長〉

出身大学
平成11年 昭和大学卒
資格
医学博士 / 日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医 / がん治療認定医機構 がん治療認定医/臨床研修指導医 / 三重大学医学部臨床准教授
医師写真

辻 優花 〈医員〉

出身大学
令和2年 三重大学卒
資格
ダ・ヴィンチコンソールアシスタント認定医

堀内 英輔 〈非常勤〉

資格
医学博士 / 日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医 / 日本腎臓学会腎臓専門医・指導医

外来診察表

休診・代診情報