よくある質問

総合診療について

現在のような総合診療医は、どのように生まれたのですか?

総合診療医の国際的な広がりと日本独自の展開

 

欧米諸国においては、家庭医(General Practitioner: GP、Family Physician)が一次医療(プライマリ・ケア)の中核を担っており、国民の健康を支えるゲートキーパーとして制度的に位置づけられています。たとえば、イギリスやカナダではGeneral Practitioner(GP)が地域住民の健康管理を包括的に担い、紹介状がなければ専門医にアクセスできない体制が整備されています[1]。アメリカではFamily Physicianがプライマリ・ケア医として主要な役割を果たしており、American Academy of Family Physicians(AAFP)はその専門性と教育体系が体系的に定義されています[2]。

 

ドイツやオランダにおいても家庭医制度は公的医療制度の中で確立されており、特にオランダではやはりGPが患者の医療アクセスを統括するゲートキーパー制度の中心に据えられています[3]。さらに、アジア諸国でもシンガポールや台湾、韓国などにおいてプライマリ・ケア機能の整備が政策的に推進されており、家庭医・総合診療医の養成が重要な課題として浮上しています[4]。

 

このような国際的な潮流の中、世界保健機関(WHO)は2018年の「アスタナ宣言(Declaration of Astana)」において、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成のために、質の高いプライマリ・ヘルスケアが各国の保健医療制度の基盤となるべきことが再確認されました[5](この宣言は、1978年のアルマ・アタ宣言[6]から40年を経て、プライマリ・ケアの重要性を再び国際社会に強調したものです)。

 

日本においても、超高齢社会の進展と慢性疾患の増加を背景に、プライマリ・ケアの充実は喫緊の課題です。とりわけ地域診療所で活躍する家庭医(かかりつけ医)の育成は、地域包括ケアシステムの中核を担う存在として不可欠であり、厚生労働省「第8次医療計画(2024年度~)」にも「かかりつけ医機能の明確化と普及」が明記されています[7]。また、日本専門医機構の下で2018年に創設された総合診療専門医制度においては、診療所レベルの家庭医・総合診療医育成が制度化されており、その上位資格としてプライマリ・ケア連合学会による新家庭医療専門医制度も継続して運用されています[8]。これらにより、地域のかかりつけ医が質の高い継続的ケアを提供できる体制づくりが進んでいます。日本のプライマリ・ケアの歴史については、2025年に出版された総説が非常に参考になります [9]。

 

一方で、人口構造が世界でも類を見ないスピードで高齢化する日本では、診療所を基盤としたプライマリ・ケアだけではなく、病院を基盤とした総合診療医(いわゆる「病院総合診療医」)の必要性も急速に高まっています。たとえばアメリカには、病棟で入院患者のケアに専従する専門家として「ホスピタリスト Hospitalist 」が確立されています[10]。Hospitalistは、入院期間中に検査・治療プランを包括的に管理し、退院後のフォローアップにつなげる役割を担うことで、病院内での質の高いケアを支えています。日本ではこのような入院中心の専門職は歴史的に定着していませんが、近年では「病院総合診療医」と呼ばれる医師が同様のニーズに応えつつ、さらに幅広い診療場面に関わる形で育成され始めています。

 

1. 医療資源の集約された場でのケア提供

病院内では、診療所と比べて高度な診断機器や各専門科スタッフが整備されており、多疾患併存の高齢患者や急性増悪例に対して迅速な精査・対応が可能です。入院から退院後の在宅医療連携まで一貫して関与することで、患者の安全性と治療効果を高めます。

 

2. 外来・救急・在宅を含む広範な診療場面への対応

アメリカのHospitalistは主に病棟入院患者のケアを担いますが、日本の病院総合診療医は日常診療の外来や救急対応、さらには必要に応じて在宅医療まで幅広い診療場面に従事します。この幅広い対応力によって、急性期を乗り越えた後の在宅移行やリハビリ連携も円滑に行え、地域のかかりつけ医と協働しながら切れ目のない医療を実現します。

 

3. 標準医療の個別化・最適化能力

病院総合診療医は各診療科のガイドラインやエビデンスを踏まえつつ、高齢患者の身体的機能・認知機能・社会的支援を総合的に勘案し、一人ひとりに個別最適化した治療プランを策定できます。家族医と同様に「患者を人として診る」姿勢を持ちつつ、病院の機能を活かした複数領域を横断るケアを提供することで、複雑困難事例への総合的アプローチを可能にしています。

 

このように、家庭医と病院総合診療医はそれぞれ担う領域が異なるものの、「継続性・包括性・患者中心」の理念を共有しています。家庭医が地域診療所で地域住民の生活背景を知りつつ長期的にフォローする一方、病院総合診療医は病院という場で専門的検査やチーム医療を駆使しながら、急性期から在宅移行まで一貫して関与することで、より複雑な課題を抱える患者を包括的に支えます。

 


 

[1]. Roland M, Guthrie B. Quality and Outcomes Framework: what have we learnt? BMJ. 2016;354:i4060.
[2]. American Academy of Family Physicians. Definition of Family Medicine.
https://www.aafp.org/about/policies/all/family-medicine-definition.html
[3]. Schäfer WLA, et al. Primary care in 34 countries: perspectives of general practitioners and their patients. WHO Europe; 2016.
[4]. Lee JY, Kwon SM. Reforming primary health care in Korea: lessons from the Nordic countries. Korean J Fam Med. 2020;41(5):251–259.
[5]. World Health Organization. Declaration of Astana. Global Conference on Primary Health Care, 2018. https://www.who.int/docs/default-source/primary-health/declaration/gcphc-declaration.pdf
[6]. World Health Organization. Declaration of Alma-Ata. https://www.who.int/docs/default-source/documents/almaata-declaration-en.pdf?utm_source=chatgpt.com
[7]. 厚生労働省. 第8次医療計画 地域医療構想等について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911302.pdf
[8]. 日本プライマリ・ケア連合学会 | 新・家庭医療専門医制度 https://shin-kateiiryo.primary-care.or.jp/
[9]. Matsumura S, et al. The Formation and Evolution of the Japan Primary Care Association: A 15-¬ Year Retrospective. J Gen Fam Med 2025; 0: 1-6. (https://doi.org/10.1002/jgf2.70070)
[10]. Wachter RM, Goldman L. The Emerging Role of “Hospitalists” in the American Health Care System. N Engl J Med. 1996;335(7):514–517.