コラム
「紹介して終わり」にしない――Ownership of patient careから考える総合診療 患者さんのケアを自分ごととして引き受け、その後まで見届ける
「専門医に紹介したら、自分の役割は終わり」でしょうか
たとえば、息切れのある患者さんに呼吸器と循環器の両面から評価が必要になり、それぞれの専門医へ紹介したとします。紹介状を書き、予約が取れた時点で、最初に診ていた医師の役割は終わるのでしょうか。
もちろん、専門的な診断や治療は専門医に委ねるべきです。しかし、複数の専門医が関わり始めたからといって、「患者さん全体を見渡す役割」まで自動的に誰かへ引き継がれるわけではありません。検査結果はどうだったのか。二つの診療科の方針に矛盾はないか。薬が重複していないか。患者さんは次にどこを受診し、体調が悪化したときは誰に相談すればよいのか。こうした問いが宙に浮けば、患者さんは医療の「すき間」に落ちてしまいます。
Ownershipとは「患者さんを所有する」ことではない
このような問題を捉える概念として、医学教育の分野を中心に議論されてきたのが patient care ownership(患者ケアに対するオーナーシップ)です。直訳すると少し強い言葉ですが、患者さんを「自分のもの」にするという意味ではありません。私たちが日々の診療・教育で使う「主治医感」、すなわち、患者さんの診療を自分ごととして引き受け、必要な行動を起こし、その結果まで見届けようとする姿勢に近いものです。
82編を対象としたスコーピングレビューでは、その中心的要素として、診療への責任、患者さんをよく知ること、自ら判断し行動すること、必要な仕事を実際に遂行すること、患者さんの利益を優先することなどが抽出されました[1]。内科・精神科の指導医225人と研修医131人、計356人から回答を得た質的研究でも、患者さんの擁護、他職種・他科とのコミュニケーションと調整、結果の確認、主体的な意思決定、そして「この患者さんのことなら、まず自分に聞いてほしい」と言える存在であることが、ownershipの具体的な姿として挙げられています[2]。小児科研修の研究では、個人的責任、患者・家族とのつながり、継続して結果を追うことが、医師としての専門職アイデンティティを形づくる重要な要素とされました[3]。
要するにownershipとは、「自分がすべてを診る」ということではなく、「誰かが診てくれるだろう」で終わらせないことです。
紹介は、責任の終了ではなく「責任のつなぎ替え」
専門医への紹介は、総合診療医が責任を手放す行為ではありません。患者さんの問題を整理し、適切な専門家の力を借り、その知見を患者さん一人の診療へ再び統合するプロセスです。領域別専門医が一つの問題の解像度を高めるなら、総合診療医は、それぞれの精細な情報を患者さんの生活や価値観の中に組み直します。
既存研究で示された、患者さんへの責任、必要な仕事を最後まで遂行すること、患者さんをよく知ること、コミュニケーションと診療調整、継続性、患者中心性などを、総合診療の実務に引き寄せると、ownershipは、たとえば次のような行動として表れます[1-4,10]。
- 何を明らかにしたいのかを整理して、専門医へ相談・紹介する。
- 受診や検査が実際に行われ、結果が患者さんに伝わったかを確認する。
- どこから何の薬が出され、実際に何を飲んでいるかを把握し、重複・相互作用・処方目的を整理する。
- 患者さんが大切にしていることや今後の療養について対話を重ね、診療計画に反映する(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)[11]。
- ワクチンやがん検診などの予防医療について、その人にとっての適切性を検討し、必要な機会につなげる。
- 複数科の方針、処方、通院負担を一つの計画に統合する。
- 悪化時の相談先と、次に診療を担う医師を患者さんと共有する。
- 自分のフォローを終える場合も、引き継ぎ先が責任を受け取ったことを確かめる。
したがって、医学的に自分が介入する必要がなくなれば、フォローを終了して構いません。ただし、それは「自然消滅」ではなく、責任の所在が明確になったうえでの終了であるべきです。紹介して終わりではなく、紹介がつながったところまで見届ける。これがownershipを実践するということです[2,4]。
Ownershipは「抱え込むこと」でも「自己犠牲」でもない
現代の医療はチームで行われます。一人の医師が24時間すべてを担うことはできませんし、それを美徳にしてはいけません。患者・家族を中心に、医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、医療ソーシャルワーカー、さらに地域の医療・介護職が役割を分かち合うことと、個々の医師が患者さんへの責任を持つことは両立します。患者・家族を含む研究でも、ownershipは双方向の関係的なコミットメントであり、チームの存在は医師個人の責任を薄めるものではないと整理されています[4]。
勤務交代や診療科の変更が必要なときには、質の高い引き継ぎそのものがownershipです。
米国の内科研修医継続外来で、年度末の患者申し送りに対して、研修医教育、予約調整、初診前の患者への電話連絡などを組み合わせた前後比較研究では、検査の適切なフォロー率が46%から67%へ改善しました[5]。ただし、単施設で行われた多面的介入であり、どの要素が改善に寄与したかは切り分けられません。大切なのは、一人で「抱え込む」ことではなく、チームで安全に「繋ぐ」ことです。
さらに、ownershipは医師を疲弊させる責任感と同義でもありません。日本の初期研修医1,816人を対象とした2026年の全国横断研究では、ownershipが高いほどバーンアウトが少なく、仕事満足度が高いという関連が示されました[6]。横断研究なので因果関係は断定できませんが、「自分の働きが患者さんのその後につながった」と実感できることは、医師のやりがいにもなり得ます。
Ownershipを育てる教育環境
ownershipは、生まれつきの性格だけで決まるものではありません。日本の25病院・研修医401人を対象とした研究では、学習環境を良いと感じていることとownershipの高さが関連し、著者らは、学習者を支援しながら合理的な自律性を与える教育環境が有用であると考察しています[7]。また、職場内の信頼、助け合い、良好な人間関係を表す「職場のソーシャル・キャピタル」が高いほどownershipも高いことが、2,811人の全国調査で報告されています[8]。つまり、ownershipは「責任を持て」と叱るだけでは育ちません。指導医が見守り、任せ、困ったときには支え、患者さんのその後を一緒に振り返る文化が必要です。
興味深いことに、日本の研修医1,836人を対象とした別の全国調査では、市中病院で研修する医師は大学病院の医師よりownershipの得点がわずかに高く、特に主体性と勤勉さの領域で差がみられました[9]。これも横断研究であり、差は小さく、病院種別だけで教育の質を決めることはできません。しかし市中病院には、外来・救急・病棟・退院支援、そして地域との連携まで、患者さんの経過を近い距離で見届けやすいという教育上の強みがあります。
当センターでは、学習者が単に診断名と治療法を答えるだけでなく、「この患者さんに今後何が起こり得るか」「診療の結果を誰が確認・追跡するのか」「退院後は誰につなぐのか」など多角的な視点で考えることを重視しています。受け持ち患者を毎日チームで共有し、専門科への相談後や退院後の経過も振り返ります。
ownershipは、診療科を問わず医師に求められる基本的な専門職能力ですが、その射程は役割によって異なります。臓器別の専門診療では、自らが担う専門領域について適切に判断・説明し、結果や合併症を追い、次の担当者へ確実につなぐownershipが求められます。一方、総合診療では、患者さんを臓器や疾患ごとに切り分けず、複数の病気や処方、生活背景、価値観、予防医療を横断し、外来・救急・病棟・退院支援・地域連携まで一貫して経過を追います。つまり、臓器別の専門診療では、ownershipが「深く、領域を定めて」発揮されるのに対し、総合診療では、複数の健康課題や診療の場をまたいで「広く、長く」発揮されます。その過程で、結果を確認し、複数の方針を統合し、次の担い手へ確実につなぐことを繰り返します。総合診療の日常には、ownershipのさまざまな側面を実践し、振り返る機会が組み込まれているのです。
総合診療を学ぶとは、幅広い医学知識を身につけることだけではありません。今回のownershipのように、多くの人が関わる医療の中で、患者さんが「結局、誰に相談すればよいのだろう」と迷わないように、診療の糸を切らずにつなぐ力を身につけることなのです。
患者まるごと、人生まるごと、地域まるごと。その中心には、「この患者さんのケアを、自分ごととして考える」というownershipがあります。私たちは、その姿勢をチームで育てられる教育施設でありたいと考えています。
市立伊勢総合病院 総合診療教育研究センター長 谷崎 隆太郎
参考文献
- Kiger ME, Meyer HS, Hammond C, Miller KM, Dickey KJ, Hammond DV, et al. Whose patient is this? A scoping review of patient ownership. Acad Med. 2019;94(11 Suppl):S95-S104. doi:10.1097/ACM.0000000000002920.
- Cowley DS, Markman JD, Best JA, Greenberg EL, Grodesky MJ, Murray SB, et al. Understanding ownership of patient care: a dual-site qualitative study of faculty and residents from medicine and psychiatry. Perspect Med Educ. 2017;6(6):405-412. doi:10.1007/s40037-017-0389-2.
- Greenzang KA, Revette AC, Kesselheim JC. Patients of our own: defining “ownership” of clinical care in graduate medical education. Teach Learn Med. 2019;31(4):393-401. doi:10.1080/10401334.2018.1556103.
- Kiger ME, Meyer HS, Varpio L. “It is you, me on the team together, and my child”: attending, resident, and patient family perspectives on patient ownership. Perspect Med Educ. 2021;10(2):101-109. doi:10.1007/s40037-020-00635-8.
- Pincavage AT, Dahlstrom M, Prochaska M, Ratner S, Beiting KJ, Oyler J, et al. Results of an enhanced clinic handoff and resident education on resident patient ownership and patient safety. Acad Med. 2013;88(6):795-801. doi:10.1097/ACM.0b013e31828fd3c4.
- Fujikawa H, Tamune H, Nishizaki Y, Nagasaki K, Kobayashi H, Nojima M, et al. Associations between patient care ownership, burnout, and job satisfaction among medical residents: a nationwide cross-sectional study in Japan. Sci Rep. 2026;16:9119. doi:10.1038/s41598-026-40301-3.
- Fujikawa H, Son D, Aoki T, Eto M. Association between patient care ownership and personal or environmental factors among medical trainees: a multicenter cross-sectional study. BMC Med Educ. 2022;22(1):666. doi:10.1186/s12909-022-03730-y.
- Fujikawa H, Tamune H, Nishizaki Y, Mori H, Fukui S, Shikino K, et al. Better workplace social capital is associated with greater patient care ownership in medical residents: a nationwide cross-sectional study. Postgrad Med J. 2026;102(1209):626-632. doi:10.1093/postmj/qgaf235.
- Fujikawa H, Tamune H, Nishizaki Y, Shikino K, Shimizu T, Yamamoto Y, et al. Hospital type and medical residents’ patient care ownership: a nationwide cross-sectional study in Japan. Clin Teach. 2025;22(4):e70109. doi:10.1111/tct.70109.
- Fujikawa H, Son D, Kondo K, Djulbegovic M, Takemura Y, Eto M. Translating and validating a Japanese version of the Patient Care Ownership Scale: a multicenter cross-sectional study. BMC Med Educ. 2021;21(1):415. doi:10.1186/s12909-021-02853-y.
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